「胸のあたりが焼けるように熱い」「酸っぱいものが上がってくる」「のどが詰まった感じが続く」 — それは逆流性食道炎のサインかもしれません。日本人の成人の10〜20%が経験すると言われ、放置すると食道狭窄やバレット食道、まれに食道がんへ進行することも。本記事では、逆流性食道炎の症状・原因・診断・治療を、内視鏡検査の視点も含めて整理します。胃カメラの不安と鎮静剤とあわせてご参照ください。
逆流性食道炎とは — 胃酸が食道に逆流して炎症が起きる病気
逆流性食道炎(GERD: Gastroesophageal Reflux Disease)は、本来胃の中にとどまるはずの胃酸が食道に逆流し、食道粘膜に炎症を引き起こす病気です。胃と食道の境目にある「下部食道括約筋」がうまく機能しなくなることで起こります。
近年、食生活の欧米化・肥満の増加・ピロリ菌感染率の低下を背景に、日本人にも急増しているのが特徴。30〜60代に多く、男女問わず発症します。「単なる胃もたれ」と片付けず、症状が2週間以上続く場合は内視鏡検査での確認をおすすめします。
なぜ食道に炎症が起きるのか
胃の内側は強い胃酸(pH1〜2の塩酸)に耐えられるよう特殊な粘膜で保護されていますが、食道はそうした防御機構を持っていません。胃酸が逆流すると、食道粘膜が直接ダメージを受け、炎症・びらん・潰瘍を形成します。これが逆流性食道炎です。
逆流性食道炎の8つの典型症状 — 「ただの胃もたれ」と区別する
逆流性食道炎の症状は多彩です。以下のうち2つ以上が当てはまり、2週間以上続いている場合は受診を検討してください。
1. 胸焼け(heartburn)
胸の中央あたりが焼けるような・熱いような感覚。食後30分〜2時間に強く出やすく、横になると悪化することが多いのが特徴です。
2. 呑酸(どんさん)
酸っぱい液体が口やのどまで上がってくる感覚。げっぷと一緒に出ることが多く、寝起きに枕元に酸っぱい味が残ることも。
3. 慢性的なげっぷ・しゃっくり
食後でなくてもげっぷが頻発する、しゃっくりが長時間続く場合、胃の中の空気が押し上げられている可能性があります。
4. のどの違和感・つかえ感
「のどに何か引っかかっている」「飲み込みにくい」という症状は、胃酸が咽頭まで逆流している(咽喉頭逆流症)サインです。耳鼻咽喉科を受診しても異常なしと言われた場合、消化器内科の受診を。
5. 胸の痛み(非心臓性胸痛)
狭心症のような胸の痛み。心臓の検査で異常がない場合、食道由来の痛みのことがあります。緊急性のある胸痛は心臓専門医、慢性的な胸痛で胃の症状を伴う場合は消化器内科へ。
6. 慢性的な咳・声がれ
胃酸が気管支まで逆流し、咳・気管支喘息のような症状を引き起こすことがあります。風邪でもないのに咳が3週間以上続く場合は要注意。
7. 食欲不振・体重減少
食事のたびに胸焼けがあると食欲が落ち、体重が減ることも。3ヶ月で5kg以上の意図しない体重減少は、消化器疾患の重要な警告サインです。
8. 睡眠障害
横になると症状が悪化するため、夜間覚醒・寝入りばなの不快感が増えます。睡眠の質が落ちると日中のパフォーマンスにも影響します。
逆流性食道炎の原因とリスク要因
逆流性食道炎を起こしやすい要因は複数あります。複数該当する方は症状がなくても予防的なチェックが推奨されます。
食習慣・生活習慣
- 食べ過ぎ・早食い:胃が拡張して下部食道括約筋がゆるむ
- 脂質の多い食事:胃排出を遅らせ逆流リスクを高める
- 食後すぐ横になる:重力の助けが失われ逆流しやすい
- 飲酒・喫煙・カフェイン:下部食道括約筋を緩める
- 炭酸飲料・チョコレート・ミント:同上
身体的要因
- 肥満:腹圧上昇で逆流リスク2倍以上
- 食道裂孔ヘルニア:解剖学的に逆流しやすい
- 妊娠:腹圧上昇とホルモンの影響
- 加齢:括約筋機能の低下
- 姿勢(猫背):腹部圧迫
ピロリ菌感染との関係
意外なことに、ピロリ菌に感染している人は逆流性食道炎になりにくく、除菌すると発症することがあります。これは除菌により胃酸分泌が回復するため。除菌後に胸焼けが出始めた方は、放置せず内視鏡検査で食道の状態を確認しましょう。
なぜ内視鏡検査が重要か — 見た目で重症度を判定する
逆流性食道炎の確定診断には胃カメラ(上部消化管内視鏡)が最も有用です。症状だけでは「軽症のGERD」と「進行したバレット食道」を区別できないためです。
内視鏡で何がわかるか
胃カメラで食道下部を観察し、以下を判定します。
- 炎症の有無と程度:粘膜の発赤・びらん・潰瘍を分類(ロサンゼルス分類: A〜D)
- 食道裂孔ヘルニアの有無:胃の一部が横隔膜より上にずれている状態
- バレット食道の有無:食道粘膜が胃の粘膜のように変化した状態。食道腺がんのリスク因子
- 食道がん・胃がんの除外:のどのつかえ感・体重減少・嚥下困難の背後に悪性疾患が隠れていないか
- ピロリ菌感染の有無:同時に検査・治療方針決定が可能
逆流性食道炎の重症度分類(ロサンゼルス分類)
- Grade A:粘膜障害が長径5mm未満
- Grade B:5mm以上で連続性なし
- Grade C:複数のひだ間を連続的に占める
- Grade D:食道全周の75%以上を占める
Grade C・Dの重症例は薬物療法に加えて生活改善・場合によっては手術検討となります。Grade A・Bは適切な薬物療法と生活改善で改善が期待できます。
逆流性食道炎の治療 — PPI薬と生活改善の両輪で
薬物療法
PPI(プロトンポンプ阻害薬):胃酸の分泌そのものを抑える最も効果的な薬。タケキャブ(ボノプラザン)・パリエット・ネキシウム等が代表的。8週間程度の継続服用で多くが改善します。
P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー):PPIより速効性があり強力。タケキャブが該当。重症例や難治例に用いられます。
H2ブロッカー:PPIより効果は弱いが、夜間の症状コントロールに併用されることがあります。
消化管運動改善薬:胃の動きを改善し逆流を減らす補助薬。
生活改善(薬と同等に重要)
- 食べ過ぎない(腹八分目)、よく噛んでゆっくり食べる
- 就寝3時間前までに食事を終える
- 就寝時に上半身を10〜15cm高くする(枕や体位)
- 脂質・甘味・カフェイン・アルコールを控える
- 喫煙者は禁煙
- 適正体重の維持(BMI 25未満)
- ベルトや締め付けるウエストバンドを避ける
外科治療(重症例・難治例)
薬物療法でコントロールできない重症例や、食道裂孔ヘルニアが大きい場合は腹腔鏡下噴門形成術が選択肢となります。専門医療機関での評価が必要です。
こんな症状があれば早めに受診を
以下の症状がある場合は、自己判断で市販薬を続けず必ず受診してください。
- 胸焼け・呑酸が2週間以上続く
- 食事や水分が飲み込みにくい(嚥下困難)
- 意図しない体重減少(3ヶ月で5kg以上)
- 黒色便・下血・吐血
- 持続する貧血
- 市販の胃薬を1週間飲んでも改善しない
- 50歳以上で初めて出現した胸焼け症状
これらは食道がん・胃がんを含む重要な疾患のサインの可能性があります。
逆流性食道炎の検査・治療に強いクリニックの選び方
1. 胃カメラ(上部消化管内視鏡)対応
正確な診断には内視鏡が必須。経鼻内視鏡対応・鎮静剤対応の有無も確認しましょう。
2. ピロリ菌検査・除菌治療まで一貫対応
逆流性食道炎とピロリ菌の関係を理解した上で、検査・除菌・除菌後フォローまで一貫対応する院を選びましょう。
3. 長期通院しやすい立地・予約体制
PPI治療は8週間以上の継続が基本、その後も再発予防のための定期受診が重要です。通いやすい立地・予約取りやすさは継続のカギ。
4. 生活指導・栄養相談の充実
薬だけでなく、食生活・睡眠・体重管理まで踏み込んだ指導を行う院は、再発率が低い傾向があります。
5. 重症例で連携できる体制
外科治療が必要な重症例に出会った時、適切な専門医療機関に紹介できる連携体制があるかも重要なポイントです。
逆流性食道炎は「我慢する病気」ではない
「胸焼けくらい」と思って市販薬で凌いでいる方が多い病気ですが、適切な診断と治療で確実に改善できます。重要なのは、症状の背後に食道がん・バレット食道などの重要疾患が隠れていないかを内視鏡検査で確認すること。
「2週間以上続く胸焼け」「のどのつかえ感」「呑酸」がある方は、放置せず一度内視鏡検査を受けることをおすすめします。
よくある質問
逆流性食道炎は完治しますか?
軽症〜中等症であれば適切な薬物療法と生活改善で症状コントロールは十分可能です。ただし生活習慣が戻れば再発しやすい病気でもあるため、長期的な管理が必要です。重症例では再発予防のための薬の継続が必要なこともあります。
市販の胃薬で対処していいですか?
1〜2週間試して改善しない場合、または2週間以上症状が続く場合は受診をおすすめします。市販の胃薬は症状を抑えるだけで、食道炎の進行や食道がんの早期発見の機会を逃すリスクがあります。
PPI薬は長く飲んでも大丈夫ですか?
PPIは比較的安全性の高い薬ですが、長期服用で骨折リスク・腎機能・腸内細菌叢への影響が報告されています。漫然と長期服用するのではなく、定期的に医師の評価を受けながら、必要最小限の量で使うのが原則です。
逆流性食道炎は食道がんになりますか?
長期間続いた逆流性食道炎によりバレット食道が形成されると、食道腺がんのリスクが上昇します。ただし発症率自体は欧米人より日本人で低めです。定期的な内視鏡フォローが早期発見の鍵です。
妊娠中の逆流性食道炎はどうすればいい?
妊娠中は腹圧とホルモンの影響で逆流性食道炎を発症しやすくなります。妊娠中も使える薬がありますので、自己判断せず産科医・消化器内科医に相談してください。生活改善(食事・体位)が基本です。
子供でも逆流性食道炎になりますか?
はい、子供でも発症します。乳児期は授乳後の溢乳として現れることが多く、年長児ではみぞおちの痛み・食欲不振・体重増加不良として現れます。気になる症状があれば小児科を受診してください。
参考にした情報源
- 日本消化器病学会「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021」
- 日本消化器内視鏡学会「上部消化管内視鏡診療ガイドライン」
- 厚生労働省「e-ヘルスネット 胃食道逆流症」
- 各PPI/P-CAB製剤の添付文書